この人工光合成戦略は国内外で極めて高い評価を得ており(2004年光化学協会賞受賞、2006年日本学術振興会賞、日本化学会学術賞、2007年東京テクノ・フォーラム21ゴールドメダル賞、大阪科学賞、ナイスステップ研究者2007)、多くの研究者がフラーレンを用いた人工光合成系の研究に参入するきっかけとなりました。また、現在最もエネルギー変換効率の高い有機薄膜太陽電池(5-10%)でフラーレンあるいはフラーレン誘導体が必ず用いられているのもそのためです。その結果として、論文(Adv. Mater. 2001, 13, 1197-1199)は過去5年間で日本人研究者が報告した論文中、材料科学の分野で2番目によく引用されています(日本経済新聞2002年1月7日、論文の引用数調査)。また、物理化学の分野でも過去5年間の論文引用数が日本人として第7位となっています(日経産業新聞2003年2月25日、論文の引用数調査)。さらに、論文の共引用関係から最近急激に伸びている領域を特定するサイエンスマップ2006において、最高の日本人シェア8割という「有機物質による人工光合成の研究」を先導しています(文部科学省科学技術政策研究所)。
我々はこの人工光合成指針に乗っ取り、新しい人工光合成型分子の光物理および光化学過程について、最新の時間分解分光手法と電子移動理論を駆使してその詳細な機構を明らかにしてきました(J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 2571-2575, 2607-2617; J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 5165-5174)。人工光合成分子の電荷分離状態の寿命については天然の光合成反応中心の寿命に匹敵するような秒レベルの超長寿命を世界で初めて実現しています(J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 6617-6628)。また、天然の光合成反応中心の寿命、効率ともに匹敵する人工光合成分子も合成に成功しています(Chem. Eur. J. 2004, 10, 3184-3196)。さらにドナー・アクセプター連結分子を巧妙に分子設計し、ドナー・アクセプター間の静的・動的な相互作用をうまく調節できれば、定量的(100%の効率)に、長寿命の光電荷分離状態を生成できることを見出しました(Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 629-633)。