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2012年(抜粋)

UtilizationEffect of dihydronaphthyl-based [60]fullerene bis adduct regioisomers on polymer solar cell performance
Kitaura, S.; Kurotobi, K.; Sato, M.; Takano, Y.; Umeyama, T.; Imahori, H. Chem. Commun. 2012, 48, 8550-8552.
DOI: 10.1039/c2cc34078j

 フラーレンC60に置換基を二つ環化付加させた誘導体は8つの異性体からなる混合物であるが、有機薄膜太陽電池のPCBMに代わる新たなn型半導体として期待されている。今回我々はジヒドロナフチル二付加体を合成し、各位置異性体の違いがエネルギー変換効率に大きな影響を与えることを明らかにした。その変換効率は混合物と比べて最大1.5倍向上した。バイコンティニュアスなドナー−アクセプターネットワーク構造が、より効果的に形成される異性体において変換効率の向上が顕著であり、今後の高効率化に向けてフラーレン誘導体の重要な設計指針を与えた。

 

Utilization of Photoinduced Charge-Separated State of Donor-Acceptor-Linked Molecules for Regulation of Cell Membrane Potential and Ion Transport
Numata, T.; Murakami, T.; Kawashima, F.; Morone, N.; Heuser, J. E.; Takano, Y.; Ohkubo, K.; Fukuzumi, S.; Mori, Y.; Imahori, H. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 6092-6095.
DOI: 10.1021/ja3007275

 光照射による細胞機能コントロールは、時間的・空間的に精密な生体機能制御を実現する手法として期待されている。本研究では、フラーレンーポルフィリンーフェロセン連結型分子(C60-Por-Fc)の優れた分子内電子移動特性に着目し、光誘起による分子内電荷分離状態を利用した細胞機能制御に初めて成功した。C60-Por-Fcに対し細胞膜導入に適した化学修飾を施し、この分子とドラッグキャリア(高比重リポ蛋白質)との複合体をPC12細胞(ラット副腎髄質由来褐色腫由来の神経細胞モデル)に導入し、光照射を行うことで細胞膜におけるイオン輸送特性を変化させることに成功した。本手法は細胞工学的に斬新なアプローチを有するもので、新規な光治療法に向けた分子開発への応用展開が期待できる。

 

Donor-Acceptor Alternating Copolymer Based on Thermally Converted Isothianaphthene Dimer and Thiazolothiazole Subunits
Umeyama, T.; Hirose, K.; Noda, K.; Matsushige, K.; Shishido, T.; Saarenpää, H.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Ono, N.; Imahori, H. J. Phys. Chem. C 2012, 116, 17414−17423.
DOI: 10.1021/jp305001p

 前駆体高分子の逆Diels-Alder反応を用いた熱変換法により、電子豊富なイソチアナフテン二量体構造と電子不足なチアゾロチアゾールのユニットが交互につながった、新規ドナー–アクセプター型共役系高分子PBITTの合成に成功した。PBITTの光学バンドギャップは1.3 eVであり、前駆体高分子(2.1 eV)に比べて著しく小さくなった。また、フラーレン誘導体であるPCBMとの複合薄膜を光活性層とした有機薄膜太陽電池を構築し、その評価を行ったところ、エネルギー変換効率は0.3%であり、以前に報告したPBIBDTを用いた系(0.07%)と比較して高くなった。本研究は、有機デバイスを指向した熱変換型低バンドギャップ高分子の設計指針に基礎的かつ重要な知見を与えるものと言える。

 

Preparation and Photophysical and Photoelectrochemical Properties of a Covalently Fixed Porphyrin–Chemically Converted Graphene Composite
Umeyama, T.; Mihara, J.; Tezuka, N.; Matano, Y.; Stranius, K.; Chukharev, V.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Noda, K.; Matsushige, K.; Shishido, T.; Liu, Z.; Hirose-Takai, K.; Suenaga, K.; Imahori, H. Chem. Eur. J. 2012, 18, 4250–4257.
DOI: 10.1002/chem.201103843

 グラフェンは、グラファイトを一層にまで剥がした、1原子の厚さを有するsp2結合炭素原子のシートである。本研究では、酸化グラフェンの化学的還元により得られるグラフェン(Chemically converted graphene, CCG)に対し、電子ドナーであるポルフィリンを、フェニレンスペーサーを介して連結した複合体(CCG-ZnP)の合成に成功した。定常状態発光スペクトルでは、ポルフィリン由来の蛍光が消光しており、励起状態でのポルフィリンとグラフェンの相互作用が示唆された。また、過渡吸収スペクトル測定を行ったところ、ポルフィリンラジカルカチオンに由来するシグナルは観察されず、電荷分離状態は形成されていないことがわかった。

 

Effects of Carbon–Metal–Carbon Linkages on the Optical, Photophysical, and Electrochemical Properties of Phosphametallacycle-Linked Coplanar Porphyrin Dimers
Matano, Y.; Matsumoto, K.; Hayashi, H.; Nakao, Y.; Kumpulainen, T.; Chukharev, V.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Shimizu, S.; Kobayashi, S.: Sakamaki, D.; Ito, A.; Tanaka, K.; Imahori, H. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 1825–1839.
DOI: 10.1021/ja210205v

 ポルフィリン二量体の研究は、光合成反応中心の営みを理解し、新規な機能性色素を開発するうえで重要な課題である。これまでに、金属の配位結合を利用したポルフィリン二量体の例が多数報告されているが、本研究では、金属—炭素共有結合を介した平面型ポルフィリン二量体を題材とした。二量化には、メソ-ホスフィノポルフィリンの位置選択的なC-H結合活性化を利用した。また、得られた金属架橋ポルフィリン二量体の光物性と電気化学特性を、各種スペクトル測定、電気化学測定、および理論計算を用いて詳しく調べた。その結果、架橋金属(パラジウム、白金)のd軌道とポルフィリンのπ軌道との間に電子的相互作用が存在すること、およびその度合いが金属d軌道のエネルギー準位に依存することなどが明らかとなった。

 

Nickel(II) and Copper(II) Complexes of beta-Unsubstituted 5,15-Diazaporphyrins and Pyridazine-Fused Diazacorrinoids: Metal-Template Syntheses and Peripheral Functionalizations
Matano, Y.; Shibano, T.; Nakano, H.; Imahori, H. Chem. Eur. J. 2012, 18, 6208–6216.
DOI: 10.1002/chem.201200463

 ジアザポルフィリンは、ポルフィリンとテトラアザポルフィリン(代表例、フタロシアニン)が融合した構造を持ち、それぞれの特徴を内包した色素兼配位子である。本研究では、まず、ジブロモジピリン金属錯体の鋳型反応を利用して、β位に置換基を持たないジアザポルフィリンニッケル錯体および銅錯体の高効率合成法を確立した。次いで、得られた誘導体の構造および吸収・電気化学特性を調べた結果、メソ位への窒素の導入により、HOMOとLUMOが安定化することやQ帯の強度が大幅に増加することなどが明らかとなった。さらに、位置選択的な臭素化とStille反応を組み合わせて、π共役置換基をβ位へ導入することに初めて成功した。

 

Thermal Conversion of Precursor Polymer to Low Bandgap Conjugated Polymer Containing Isothianaphthene Dimer Subunits
Umeyama, T.; Hirose, K.; Noda, K.; Matsushige, K.; Shishido, T.; Hayashi, H.; Matano, Y.; Ono, N.; Imahori, H. J. Phys. Chem. C 2012, 116, 1256.
DOI: 10.1021/jp208775x

 イソチアナフテン構造を主鎖に導入した共役系高分子は、小さなバンドギャップを有することが知られており、有機半導体デバイスへの応用が期待されている。本研究では、前駆体高分子の加熱による逆Diels-Alder反応を用いることでイソチアナフテン二量体骨格を主鎖に含む新規共役系高分子を合成し、その光物性、半導体特性および太陽電池特性等を検討した。まず、Stilleカップリング反応を素反応とした重合により、ジメチルビシクロ[2.2.2]オクタジエン骨格が縮環したチオフェン二量体とベンゾジチオフェンの交互共重合体を前駆体高分子として合成した。イソチアナフテン二量体骨格への熱変換により得られた高分子は有機溶媒に不溶であった。熱変換前後の薄膜の吸収スペクトルを測定したところ200 nm以上の著しい長波長シフトが観察された。この吸収スペクトルの変化はイソチアナフテン構造により主鎖のキノイド構造が共鳴安定化され、共役系が拡張したためと考えられる。さらに、得られた高分子の半導体特性評価を行うため、トップコンタクト型有機薄膜トランジスタの半導体層として用いた素子を作製した。その結果、前駆体高分子では半導体特性が観測されなかったのに対して、変換後の高分子ではホール移動度 (μh) = 1.1 × 10–4 cm2 V–1 s–1、オンオフ比 (Ion/Ioff) = 2.5 × 102のp型半導体特性が観測された。また、フラーレン誘導体(PCBM)とのバイレイヤーを活性層とした有機薄膜太陽電池は、0.07%のエネルギー変換効率を示した。

2011年(抜粋)

Bisquinoxaline-Fused Porphyrins for Dye-Sensitized Solar Cells
Imahori, H.; Iijima, H.; Hayashi, H.; Toude, Y.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Ito, S. ChemSusChem 2011, 4, 797.
DOI: 10.1002/cssc.201100029

新規カルボキシキノキサリノ[2,3-b]キノキサリノ[12,13-b’]ポルフィリン(ZnPBQ)を合成し、π電子系の拡張がポルフィリンの光学特性、電気化学特性、光電変換特性に与える影響を調べた。ZnPBQは、カルボキシキノキサリノ[2,3-b]ポルフィリン(ZnPQ)と比べて、ソーレーバンドとQバンドが長波長シフトしていた。このポルフィリンのHOMO-LUMOギャップは、DFT計算から見積もられた値に対応していた。封止セルを作製して光電変換効率を比較した。ZnPBQのセルでは、変換効率が4.7%と比較的高い値を示した。しかし、ZnPQで達成された変換効率(6.3%)よりも低い値だった。その原因として、ZnPBQのLUMOと酸化チタンの伝導体との電子カップリングがZnPQのそれと比べて弱い、また、酸化チタン表面に対してZnPQよりも傾いていることが考えられる。その結果、電子注入効率と電荷収集効率、IPCE値がZnPQよりも低くなり、変換効率が低下したと考えられる。さらに、酸化チタンの伝導体に注入された電子とヨウ素電解質との間で電荷再結合が生じ、ZnPBQの開放電圧はZnPQと比べてわずかに低下した。

 

Effects of fullerene encapsulation on structure and photophysical properties of porphyrin-linked single-walled carbon nanotubes
Umeyama, T.; Mihara, J.; Hayashi, H.; Kadota, N.; Chukharev, V.; Tkachenko, N. V.; Lemmtyinen, H.; Yoshida, K.; Isoda, S.; Imahori, H. Chem. Commun. 2011, 47, 11781.
DOI: 10.1039/C1CC15011A

単層カーボンナノチューブ(SWNT)にフラーレンを内包したフラーレンピーポッドは、その特異な構造のみならず、分子内包によるSWNTの物性制御の観点からも興味が持たれる。しかしながら、SWNT・電子ドナー間の励起状態相互作用に対するフラーレン内包効果を検証した研究例は非常に少ない。本研究では、フラーレンC60を内包した単層カーボンナノチューブ(C60@SWNT)に、ドナー性分子であるポルフィリン(ZnP)を共有結合で連結した複合体を作製した。その光ダイナミクスを詳細に検討したところ、光励起された複合体はエキシプレックスの形成を経て、電荷分離状態となる事が明らかになった。一方、C60を内包しない場合には電荷分離状態が観測されないことから、C60の内包がSWNTの電子状態に影響を与えている事が示唆された。

 

Electron Transfer Cascade by Organic/Inorganic Ternary Composites of Porphyrin, Zinc Oxide Nanoparticles, and Reduced Graphene Oxide on a Tin Oxide Electrode that Exhibits Efficient Photocurrent Generation
Hayashi, H.; Lightcap, I. V.; Tsujimoto, M.; Takano, M.; Umeyama, T.; Kamat, P. V.; Imahori, H. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 7684.
DOI: 10.1021/ja201813n

天然の光合成反応中心では、ドナー・アクセプターの超分子的な自己組織化により高効率な電荷分離が達成されている。このような多段階電子移動を利用することは、高効率な太陽エネルギー変換を行うために重要である。しかしながら、電極上で性質の異なる有機・無機材料をボトムアップ式に組織化することで高効率な多段階電子移動を実現することは未だ難しい。本研究では、ポルフィリン(ZnP)、酸化亜鉛ナノ粒子(ZnO)、部分還元酸化グラフェン(RGO)を用いて、多段階電子移動を示す複合体を半導体電極上にボトムアップ式に組織化させることを目指した。まず、酸化グラフェンとZnOの混合溶液に対し紫外線照射を行い、酸化グラフェンの還元を行った。次に、この溶液に有機溶媒を加えることでZnOを凝集させた後、部分還元グラフェン(RGO)-ZnO複合体を得た。さらにこの複合体にZnPを吸着させ、RGO-ZnO-ZnP複合体を得た。得られたRGO-ZnO-ZnP複合体を疎液相互作用によりさらに凝集させ、泳動電着により酸化スズ電極上に電着させた。電子顕微鏡測定の結果、複合体中でZnPにより被覆されたZnOがさらに密にRGOを被覆していることが明らかになった。この複合体修飾酸化スズ電極の光電変換特性を評価した結果、複合体中にRGOを導入した系は、RGOを導入していない参照系と比べて、高い光電流発生効率を示すことが明らかになった。これは、電極上での有機・無機材料の階層構造形成によって、ZnPの励起1重項状態からZnO、RGO、酸化スズへと電子が円滑に輸送されたためと考えられる。本研究では、部分還元酸化グラフェンを二次元の足場として用いたボトムアップ式組織化により、電極上での多段階電子移動により高効率な光電変換特性を達成できることを実証できた。

 

Segregated Donor-Acceptor Columns in Liquid Crystals That Exhibits Highly Efficient Ambipolar Charge Transport
Hayashi, H.; Nihashi, W.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Seki, S.; Shimizu, Y.; Imahori, H. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 10736.
DOI: 10.1021/ja203822q

液晶を用いたドナー・アクセプターの配列制御は、電界効果トランジスタや太陽電池等のデバイスへの展開を考えると重要である。そこで本研究では、ドナーとしてカラム構造を形成するフタロシアニンに注目し、そのフタロシアニンに共有結合を介してアクセプターであるフラーレンを連結することにより、アクセプターの配列も制御することを目指した。まず、フタロシアニン-フラーレン連結分子(ZnPc-C60)を合成し、この分子に関して構造解析を行ったところ、フタロシアニンの一次元状カラムにフラーレンがらせん状に連続して巻き付いた構造を形成していることがわかった。また、アニーリング処理を加えた本分子の移動度特性を過渡光電流測定法および時間分解マイクロ波吸収伝導度測定法により評価したところ、最高レベルのアンバイポーラー電荷輸送特性を示すことが明らかになった。過渡光電流測定法の移動度はZnPc-C60カラム間でのZnPc-C60カラムの配向程度とZnPc-C60カラム中でのZnPc-C60分子の配向程度、時間分解マイクロ波吸収伝導度測定法での移動度はZnPc-C60カラム中でのZnPc-C60分子の配向程度のみを表している。また、熱処理による移動度の向上が時間分解マイクロ波吸収伝導度測定法で観測した場合よりも過渡光電流測定法で観測した場合の方が大きい。以上の結果は、ZnPc-C60カラム中での効率的な電荷輸送に加え、熱処理によってZnPc-C60カラム間の配向が改善したことによって電荷輸送効率が大きく向上したことを示唆している。

 

Carbon Nanotube Wiring of Donor-Acceptor Nanograins by Self-Assembly and Efficient Charge Transport
Umeyama, T.; Tezuka, N.; Kawashima, F.; Seki, S.; Matano, Y.; Nakao, Y.; Shishido, T.; Nishi, M.; Hirao, K.; Lehtivuori, H.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Imahori, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 4615.
DOI: 10.1002/anie.201007065

ポルフィリン-フラーレン連結分子は、長寿命の電荷分離状態を効率よく生成できるため、光電変換デバイスへの適用が期待される。しかし、固体中ではポルフィリンとC60を繋ぐ共有結合部位が分子同士の望ましい配列を妨げるため、分子間電子移動が効率良く起こらず、これまで連結分子を用いた光電変換系では高い光電流発生効率が得られていない。そこで本研究ではホール・電子輸送ナノ経路を構築するため、電子輸送能に優れた単層カーボンナノチューブ(SWNT)を一次元ナノ鋳型として複合化させることを試みた。光電流作用スペクトルを湿式三極系セルにて測定したところ、ポルフィリン-フラーレン連結分子の単成分クラスター修飾電極と比較して、SWNT共存下では光電流発生の外部量子収率が約2倍に向上した。各種スペクトル測定、サイクリックボルタンメトリー測定によりエネルギーダイアグラムを作成したところ、ポルフィリン励起状態からフラーレン部位への電荷分離後、フラーレンを介した電子輸送、およびSWNTへの電子注入後、SWNTを介した電子輸送により光電流発生効率が向上することが示唆された。

 

Photophysics and Photoelectrochemical Properties of Nanohybrids Consisting of Fullerene-Encapsulated Single-Walled Carbon Nanotubes and Poly-(3-hexylthiophene)
Tezuka, N.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Shishido, T.; Yoshida, K.; Ogawa, T.; Isoda, S.; Stranius, K.; Chukharev, V.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Imahori, H. Energy Environ. Sci. 2011, 4, 741.
DOI: 10.1039/c0ee00482k

フラーレンを内包した単層カーボンナノチューブ(フラーレンピーポッド)は、その特異な構造のみならず、分子内包によるカーボンナノチューブの物性制御の観点からも興味が持たれる。しかしながら、カーボンナノチューブ・電子ドナー間の励起状態相互作用に対するフラーレン内包効果は未だ報告されていない。そこで本研究では、フラーレンC60あるいはC70を内包した単層カーボンナノチューブ(C60@SWNT, C70@SWNT)とポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)からなる複合体を作製した。その励起状態挙動および光電気化学特性を詳細に検討したところ、フラーレンを内包した効果は光ダイナミックス・光電気化学特性に現れず、複合体は光励起によりエキシプレックスを形成した後、1ピコ秒以内に基底状態に失活することがわかった。

 

Fusion of Phosphole and 1,1’-Biacenaphthene: Phosphorus(V)-Containing Extended π-Systems with High Electron Affinity and Electron Mobility
Matano, Y.; Saito, A.; Fukushima, T.; Tokudome, Y.; Suzuki, F.; Sakamaki, D.; Kaji, H.; Ito, A.; Tanaka, K.; Imahori, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 8016.
DOI: 10.1002/anie.201102782

ホスホールを含む縮環パイ共役分子は、電子輸送材料の母核として近年徐々に注目を集めつつあるが、その候補化合物の種類・数は極めて限られている。高い電子受容性と電子輸送特性を付与するには、剛直で平面性が高い芳香環を縮環させることが望ましい。そこで、本研究では、1,1’-ビアセナフチレンが5価のリンで架橋された構造をとるジアセナフト[b,d]ホスホール誘導体を新たに合成し、その結晶構造および諸物性を系統的に調べた。得られた化合物の中でも、P=S体は特に高い電子受容性と電気化学的安定性を併せ持つが、一電子還元体のESRスペクトルから不対電子がパイ系全体に非局在化することが明らかとなった。さらに、アモルファス膜の電子移動度をTime-of-Flight測定により求めた結果、最高値として2×10-3 cm2/Vsという値が得られた。これらの結果は、構築した新規縮環ホスホール誘導体が、低分子n型材料として高い潜在力を持つことを示唆している。

2010年(抜粋)

Effects of meso-Diarylamino Group of Porphyrins as Sensitizers in Dye-Sensitized Solar Cells on Optical, Electrochemical, and Photovoltaic Properties
Imahori, H; Matsubara, Y.; Iijima, H.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Ito, S.; Niemi, M.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H. J. Phys. Chem. C 2010, 114, 10656.
DOI: 10.1021/jp102486b

メソビス(ジアリルアミノ)ポルフィリン(cis-ZnP、trans-ZnP)、メソジアリルアミノポルフィリン(mono-ZnP)、および、メソ位にジアリルアミノ基が導入されていない参照系のポルフィリン(ZnP)を合成し、ジアリルアミノ基の数や導入位置がポルフィリンの光学特性、電気化学特性、光電変換特性に与える影響を調べた。ジアリルアミノ基の導入数が増えるに従い、可視領域の光捕集能は向上した。これらポルフィリンのHOMO-LUMOギャップはDFT計算から見積もられた値に対応していた。封止セルを作製してエネルギー変換効率を比較したところ、trans-ZnP(3.8%)< ZnP(4.4%)< cis-ZnP(5.5%)< mono-ZnP(6.5%)の順であった。ZnP吸着セルは、APCE値は高いが光捕集能が低いために短絡電流密度(Jsc)が中程度に留まっているのに対し、mono-ZnP吸着セルは、APCE値が高く、かつ、光捕集能も中程度であるため高いJscを示した。trans-ZnPとcis-ZnP の光捕集能が同程度であることを考慮すると、これらが示すAPCE値とJsc値は相関している。trans-ZnP吸着セルと cis-ZnP吸着セルの開放電圧(Voc)は、mono-ZnP吸着セルおよびZnPセルよりも低かった。全体としては、4つのポルフィリンが示すエネルギー変換効率の違いは、それぞれのポルフィリンが示すJscとVocの違いに起因していた。

 

Good Solvent Effects of C70 Cluster Formations and Their Electron-Transporting and Photoelectrochemical Properties
Tezuka, N.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Shishido, T.; Kawasaki, M.; Nishi, M.; Hirao, K.; Lehtivuori, H.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Honsho, Y.; Seki, S.; Imahori, H. J. Phys. Chem. B 2010, 114, 14287.
DOI: 10.1021/jp911141s

フラーレンC70のクラスター状凝集体について、その形状と光電変換特性の相関解明に取り組んだ。C70クラスターは、良溶媒に溶解したC70にアセトニトリルを加えることで調整した。この際、良溶媒の種類により、球状、ロッド状、プレート状のクラスターが形成することを見出した。これらのクラスターを酸化スズ電極上に泳動電着して電子移動度を評価すると、クラスター形状によって移動度が変化することがわかった。さらに、光電流発生効率を比較すると、クラスター形状に応じてその値が変化した。また、電子移動度が大きい程、光電流発生も増大した。以上より、クラスター形状、電子移動度、光電変換特性に強い相関があることがわかった。特に、ナノレベルでのC70分子のパッキング構造が、最終的なクラスター形状および電子移動度、ひいては光電変換特性に強く影響していることが示唆された。

 

Effects of pi-Elongation and the Fused Position of Quinoxaline-Fused Porphyrins as Sensitizers in Dye-Sensitized Solar Cells on Optical, Electrochemical, and Photovoltaic Properties
Kira, A.; Matsubara, Y.; Iijima, H.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Ito, S.; Niemi, M.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Imahori, H. J. Phys. Chem. C 2010, 114, 11293.
DOI: 10.1021/jp1004049

新規ベンゾ[f]キノキサリノ[2,3-beta]ポルフィリンカルボン酸(ZnBQA)とシアノキノキサリノ[6,7-beta]ポルフィリンカルボン酸(ZnQCA)を合成し、π電子系の拡張やキノキサリンの縮環位置が、ポルフィリンの光学特性、電気化学特性、光電変換特性に与える影響を調べた。ZnQBAは、キノキサリノ[2,3-beta]ポルフィリンカルボン酸(ZnQMA)と比べて、ソーレーバンドが分裂および長波長シフトしており、Qバンドが短波長シフトしていた。一方、ZnQCAのソーレバンドおよびQバンドは、ZnQMAと比べて長波長シフトしていた。これらポルフィリンのHOMO-LUMOギャップは、DFT計算から見積もられた値と一致している。これらのポルフィリンの光電変換特性を、封止セルを用いて比較した。その結果、エネルギー変換効率は、ZnQCAが0.8%であったのに対し、ZnBQAは5.1%と比較的高い値であることが分かった。しかしこれらの値は、参照系であるZnQMAを用いたセルの変換効率(6.3%)よりも低かった。ZnBQAのLUMOと酸化チタンの伝導体との電子カップリングがZnQMAのそれと比べて弱いため、電子注入効率およびIPCE値がZnQMAと比べて低くなった結果、変換効率が低下したと考えられる。また、ZnQCAのIPCE値がさらに低い原因は、ZnQCAの蛍光寿命(0.2, 5 ps)が、典型的なポルフィリン励起一重項から酸化チタンへの電子注入のタイムスケール(0.1-10 ps)と同等であることに起因すると考えられる。加えて、ZnQCAが酸化チタン表面に密に吸着していないために、酸化チタンの伝導体に注入された電子とヨウ素電解質との間で電荷再結合が生じ、その結果、ZnQCAの開放電圧は著しく低下している。

 

Dispersion of carbon nanotubes by photo- and thermal-responsive polymers containing azobenzene unit in the backbone
Umeyama, T.; Kawabata, K.; Tezuka, N.; Matano, Y.; Miyato, Y.; Matsushige, K.; Tsujimoto, M.; Isoda, S.; Takano, M.; Imahori, H. Chem. Commun. 2010, 46, 5969.
DOI: 10.1039/c0cc00709a

光、あるいは熱による刺激に応答して構造が変化する共役系ポリマーを合成し、単層カーボンナノチューブに対する分散能を検討した。目的のポリマーは、光または熱の作用によりシス–トランス異性化を引き起こすアゾベンゼン基を主鎖骨格中に導入することで合成した。このポリマーをカーボンナノチューブの共存下、THF中で超音波照射したところ、シス基の割合に応じてナノチューブの分散度が変化することがわかった。さらに、薄膜状態において熱を加え、構造変化を誘起することで、ナノチューブを残したままポリマーのみを除去できることを見出した。このように、外部刺激によって選択的除去が可能なナノチューブ分散材は他に類を見ない。本ポリマーを用いることで、ナノチューブ薄膜の微細なパターン加工が可能になると期待される。

 

Comparison of Cluster Formation, Film Structure, Microwave Conductivity, and Photoelectrochemical Properties of Composites Consisting of Single-Walled Carbon Nanotubes with C60, C70, and C84
Tezuka, N.; Umeyama, T.; Seki, S.; Matano, Y.; Nishi, M.; Hirao, K.; Imahori, H. J. Phys. Chem. C 2010, 114, 3235.
DOI: 10.1021/jp910832a

種々のフラーレン(C60、C70、C84)と単層カーボンナノチューブからなる複合体について、複合化挙動および光電変換特性を系統的に比較した。電子顕微鏡観察から、複合体形成が選択的ではないC60と比較し、C70、C84ではナノチューブとの複合化がオルトジクロロベンゼン–アセトニトリル混合系中にて効率よく進行することがわかった。各複合体を酸化スズ電極上に泳動電着し、光電流発生効率を比較すると、C70 > C60 > C84の組み合わせ順に外部量子収率が向上した。C60との組み合わせでは、光電流発生への寄与が小さい副生成物の形成により、ナノチューブとの複合化が選択的なC70に比べ量子収率が低くなったと考えられる。一方、C84との組み合わせでは、C84の還元電位がナノチューブと酸化スズの伝導帯位置より低く、光電流発生がエネルギー的に不利であるため、量子収率が低下したと考えられる。

 

Photoinduced Charge Carrier Dynamics of Zn-Porphyrin-TiO2 Electrodes: The Key Role of Charge Recombination for Solar Cell Performance
Imahori, H.; Kang, S.; Hayashi, H.; Haruta, M.; Kurata, H.; Isoda, S.; Canton, S. E.; Infahsaeng, Y.; Kathiravan, A.; Pascher, T.; Chábera, P.; Yartsev, A. P.; Sundström, V. J. Phys. Chem. A 2010, ASAP.
DOI: 10.1021/jp103747t

亜鉛ポルフィリンが修飾された酸化チタンナノ粒子電極に対して時間分解過渡吸収測定を行った。その結果、電極上で行われている電子移動のダイナミクスは、電極の色素増感太陽電池特性と相関があることが分かった。我々は、亜鉛ポルフィリンが酸化チタン電極表面に対して、傾いた配向をとって吸着している可能性があることを発見した。その傾き角度は、ポルフィリンから酸化チタン電極への電子移動距離を決めるものであり、電子移動はボンドを介するよりも、むしろ、空間を通して起こっていることが分かった。光捕集能のばらつきを考慮に入れた場合、ポルフィリン色素の浸漬時間が短い場合(1時間)では、酸化チタン電極の伝導体に長時間留まっている電子の影響により、太陽電池特性と電子移動速度成分の振幅に直接的な相関がある。一方、浸漬時間が長い場合(12時間)では、電子注入効率が減少するため、太陽電池特性が低下することが分かった。

 

Selective Formation and Efficient Photocurrent Generation of [70]Fullerene–Single-Walled Carbon Nanotube Composites
Umeyama, T.; Tezuka, N.; Seki, S.; Matano, Y.; Nishi, M.; Hirao, K.; Lehtivuori, H.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Nakao, Y.; Sakaki, S.; Imahori, H. Adv. Mater. 2010, 22, 1767.
DOI: 10.1002/adma.200903056

フラーレンC70と単層カーボンナノチューブとの複合化を初めて検討した。化学修飾により可溶化したナノチューブとC70の混合溶液に、貧溶媒であるアセトニトリルを添加することで、ボトムアップ的に複合化が進行することを見出した。得られた複合体の電子顕微鏡観察から、球状のC60と比較し扁平な構造を持つC70では、チューブ側壁にC70分子が集積した複合体が選択的に形成することがわかった。このC70–ナノチューブ複合体を酸化スズ電極上に泳動電着し、光電流発生効率を評価すると、カーボンナノチューブを用いた光電変換素子では最高となる26%の外部量子収率を得た。C70とナノチューブの選択的複合化による電子移動度の増強が、光電変換特性の向上に大きく寄与していると考えられる。

 

Synthesis of alpha,alpha’-Linked Oligophospholes and Polyphospholes by Using Pd–Cu-Promoted Stille-Type Coupling
Saito, A.; Matano, Y.; Imahori, H. Org. Lett. 2010, 12, 2675.
DOI: 10.1021/ol100926q

ポリヘテロールの光物性と電気化学特性は、要となる典型元素の特性を顕著に反映する。しかしながら、ホスホールの誘導体(ポリホスホール)に関しては、ホスホール環α位を修飾する汎用性の高い方法が限られていたため、その合成が報告されていなかった。本研究では、α位にトリブチルスタニル基あるいはヨード基を有するホスホールの簡便な合成法を開発し、これらを基質とするクロスカップリング反応により、α位で連結されたポリホスホールを合成することに初めて成功した。得られた化合物の光学特性および電気化学特性を調べた結果、ホスホール環の多量化に伴い、吸収極大波長は大きく長波長側へシフトし、還元電位は正側へシフトすることが明らかとなった。これらの結果は、ポリホスホールが狭いバンドギャップと高い電子受容能を持つことを示唆しており、新しい電子受容型共役高分子としての利用が期待される

 

Synthesis, Structures, Optical and Electrochemical Properties, and zcomplexation of 2,5-Bis(pyrrol-2-yl)phospholes
Matano, Y.; Fujita, M.; Saito, A.; Imahori, H. C. R. Chimie 2010, 13, 1035.
DOI: 10.1016/j.crci.2010.03.017

α位にピロール環を有するホスホールをチタナサイクル法により合成し、その物性と配位能を調べた。合成した誘導体は、いずれもπ面の高い平面性と低い励起エネルギーを有しており、ピロールとホスホールが効果的に共役していることが示唆された。金、白金との錯形成では、それぞれモノホスフィン錯体、ビスホスフィン錯体が得られる。このうち、トランス型ビスホスフィン白金錯体では、白金に結合した塩素原子とピロールの窒素上水素との間に分子内水素結合が認められた。また、白金錯体の吸収スペクトルでは、白金−リン結合を介したπ系の相互作用により長波長領域におけるππ*吸収帯が分裂することが明らかとなった。得られた結果は、ホスホールとピロールそれぞれの構造化学的特性を顕著に反映するものであり、元素相乗型の新しいホスフィン配位子を構築できたと考えている

 

Synthesis and Reactions of Phosphaporphyrins: Dramatic Alteration of π-Electronic Structures Caused by Chemical Modification of Core-Phosphorus Atom
Nakabuchi, T.; Nakashima, M.; Fujishige, S.; Nakano, H.; Matano, Y.; Imahori, I. J. Org. Chem201075, 375.
DOI: 10.1021/jo902060b

ポルフィリンのピロールがホスホールで置換された核置換ポルフィリン(ホスファポルフィリン)の合成と反応性について詳細に検討し、吸収特性・電気化学特性と併せてまとめたまず、ホスファトリピランと対応するヘテロール誘導体の脱水縮合反応によりPXN2型のホスファポルフィリンを合成し、その基礎物性を調べた。いずれも、NMRでは18π芳香族性に由来する環電流効果が観測される。また、σ3-P型のホスファポルフィリンは、過酸化水素によりリン上が速やかに酸化され、20πP(O)SN2イソフロリンおよび22π拡張PN3ポルフィリンを主生成物として与える。前者の反応から得られる20πP(O)SN2イソフロリンは、分子内水素結合により構造化学的な安定化を受けており歪んだπ面を持つこと、および、磁気的に弱い反芳香族性を示すことが明らかとなった。得られた結果は、ポルフィリンπ系の電子構造を大きく手段として、リンによる核置換という手法が有力であることを示している。

2009年(抜粋)

Synthesis and Aggregation Behavior of meso-Sulfinylporphyrins: Evaluation of S-Chirality Effects on the Self-Organization to S-Oxo-Tethered Cofacial Porphyrin Dimers
Kira, A.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Yoshida, K.; Isoda, S.; Park, J. K.; Kim, D.; Imahori, H. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 3198.
DOI: 10.1021/ja8096465

配位結合を利用してポルフィリン・フラーレン配列を電極に対して垂直方向に構築した。膜構造を各種顕微鏡で調べたところ、2層目から5層目においてのみ、フラーレンがポルフィリンとの配位結合およびフラーレン間のπ-π相互作用を形成することで、バイコンティニアスなポルフィリン・フラーレン配列が電極上で垂直方向に構築されていることが確認できた。光電変換効率を評価した結果、ポルフィリン・フラーレン配列系ではポルフィリン配列のみを修飾した系と比較してIPCE値が大きく向上し、5層目で最大値21%を達成した。以上の結果より、電極に垂直な方向にバイコンティニアスなポルフィリン・フラーレン配列が形成されたことにより、電子と正孔が各電極に向かって方向性をもって移動し、光電変換特性が向上したと考えられる。本研究では、電極の垂直方向にバイコンティニュアスドナー・アクセプター配列を形成させた系で最も高いIPCE値を達成しただけでなく、ポルフィリン層数に対する膜構造と光電気化学特性との相関を初めて詳細に明らかにすることに成功した。

 

Effects of Electrode Structure on Photoelectrochemical Properties of ZnO Electrodes Modified with PorphyrinFullerene Composite Layers with an Intervening Fullerene Monolayer
Hayashi, H.; Kira, A.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Charoensirithavorn, P.; Sagawa, T.; Yoshikawa, S.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Imahori, H. J. Phys. Chem. C 2009113, 10819.
DOI: 10.1021/jp902623g

酸化亜鉛ナノロッド電極と酸化亜鉛ナノ粒子電極を、色素増感バルヘテロ接合有機太陽電池に適用した。電極の作製方法は、まず、酸化亜鉛電極をフラーレン誘導体の単分子膜で被覆した。次に、ポルフィリンとフラーレン誘導体を、フラーレン誘導体単分子膜で被覆された酸化亜鉛電極上にスピンコート法を用いて薄膜化することで、ポルフィリン-フラーレン修飾酸化亜鉛電極を作製した。酸化亜鉛ナノロッドにフラーレン誘導体を被覆させた系は、被覆させていない参照系と比べて、IPCE(incident photon-to-current efficiency)値が大幅に向上することが明らかになった。このIPCE値の向上の原因は、フラーレン誘導体単分子膜により電荷再結合が抑制され、電極への電子注入効率が向上したことに帰結できる。また、酸化亜鉛電極の形状がポルフィリン-フラーレン修飾酸化亜鉛電極の光電気化学特性に与える影響について検討した。酸化亜鉛ナノ粒子電極の表面積は酸化亜鉛ナノロッド電極の表面積の約3倍であり、酸化亜鉛ナノロッド電極よりも高い光電流発生が期待できる。しかしながら、光電流の発生は同程度であった。この原因は、酸化亜鉛ナノロッド電極は、電極全体にわたってポルフィリン-フラーレン複合体で被覆されているが、酸化亜鉛ナノ粒子電極では電極上部しかポルフィリン-フラーレン複合体で被覆されておらず、電極構造を有効利用できていないためであることが、SEM測定により明らかになった。

 

Acenaphtho[1, 2-c]phosphole P-Oxide: A Phosphole-Naphthalen pi-Conjugated System with High Electron Mobility
Saito, A.; Miyajima, T.; Nakashima, M.; Fukushima, T.; Kaji, H.; Matanom Y.; Imahori, H. Chem. Eur. J. 2009, 15, 10000.
DOI: 10.1002/chem.200901378

最近、我々は新規パイ共役骨格としてベンゾ[c]ホスホールに注目し、ビチオフェンが縮環したベンゾ[c]ホスホールを合成することに成功し、興味深いことにそのオキシド体が比較的高い電子移動度を示すことが明らかとなった。そこで、今回我々は[c]縮環ホスホールの電子受容能や電子輸送特性に対する縮環部位の効果を明らかにする目的でナフタレン、アセナフテン、アセナフチレンが縮環した共役ホスホールを新たに合成し、その構造および電気化学特性について系統的に検討した。各種測定の結果、縮環部位の違いが光学特性および電気化学特性、さらに安定性に大きく影響することが明らかとなった。アセナフト縮環体についてtime-of-flight法によりアモルファス膜中での電子移動度の測定を行ったところ、測定範囲内ではAlq3よりも一桁高い電子移動度を示した

 

Phosphole-Triazole Hybrids: A Facile Synthesis and Complexation with Pd(II) and Pt(II) Salts
Matano, Y.; Nakashima, M.; Saito, A.; Imahori, H. Org. Lett. 2009, 11, 3338.
DOI: 10.1021/ol901194m

α位にエチニル基を有するホスホールのHuisgen環化を利用したホスホール=トリアゾールπ共役分子の合成に成功した。得られたハイブリッド分子の吸収・発光特性はリン上置換基の有無に大きく依存する。一方、トリアゾール環末端のアリール基が及ぼす電子効果は極めて小さい。PdCl2およびPtCl2との錯形成をした結果、PdCl2へはP,N二座配位子として、PtCl2へはP単座配位子として振る舞うことが明らかとなった。また、キレート効果のためPd錯体の光学特性は、配位子自体のものから大きく変化することを確認した。(本論文は、C&EN, 2009, July 27 Concentrates の中で取り上げられました。)

 

Effects of Porphyrin Substituents and Adsorption Conditions on Photovoltaic Properties of Porphyrin-Sensitized TiO2 Cells
Imahori, H.; Hayashi, S.; Hayashi, H.; Oguro, A.; Eu, S.; Umeyama, T.; Matano, Y. J. Phys. Chem. C 2009, 113, 18406.
DOI: 10.1021/jp907288h

メソテトラフェニルポルフィリンの置換基や酸化チタン電極への吸着条件が、ポルフィリン吸着酸化チタン電極の光電変換特性に与える影響について検討した。その結果、光電変換特性は、ポルフィリンコアと酸化チタン表面とのリンカー部位、ポルフィリンコア周囲に導入した立体障害、ポルフィリン吸着時における吸着溶媒や吸着時間に強く依存していることが分かった。特に、プロトン性溶媒を吸着溶媒として用い、かつ、吸着時間が短いほど、光電変換特性が向上することが明らかになった。これは、ルテニウム色素を用いた系とは対照的な結果である。最も高い変換効率は、5-(4-カルボキシフェニル)-10, 15, 20-トリス(2,4,6-トリメチルフェニル)ポルフィリネートジンク(II)のメタノール溶液に、酸化チタン電極を1時間浸漬させた電極において達成された。このセルはAM1.5条件下で変換効率4.6%(短絡電流密度9.4 mA/cm2、開放電圧0.76 V、フィルファクター0.64)を示した。これらの結果は、高効率を達成する色素増感太陽電池の開発に基礎的および重要な情報を与えたと言える。

 

Meso-Substituent Effects on Redox Properties of the 5,10-Porphodimethene-Type P,S,N2-Hybrid Calixphyrins and Their Metal Complexes
Matano, Y.; Fujita, M.; Miyajima, T.; Imahori, H. Organometallics 2009, 28, 6213.
DOI: 10.1021/om900745t

カリックスフィリンはポルフィリンとカリックスピロールが融合した化合物であり、柔軟な骨格と酸化還元活性なπ平面を併せ持っている。今回、メソアリール位に電子供与性・吸引性の置換基を導入し、新たな核置換カリックスフィリン配位子の合成に成功した。得られたP,S,N2-ハイブリッド配位子は、パラジウムおよびロジウムと速やかに錯形成し、以下に示す金属錯体を与える。フリーベースおよびパラジウム錯体については酸化電位を調べ、π系の酸化状態がメソアリール基の電子効果を顕著に受けることを明らかにした。また、ロジウム錯体については、X線結晶構造解析・NMRにより配位子の静的構造ならびに動的挙動を調べ、P,S,N2-ハイブリッド配位子がhemilabileな特性を持つことを明らかにした

2008年(抜粋)

Clusterization, Electrophoretic Deposition, and Photoelectrochemical Properties of Fullerene-Functionalized Carbon Nanotube Composites
Umeyama, T.; Tezuka, N.; Fujita, M.; Hayashi, S.; Kadota, N.; Matano, Y.; Imahori, H. Chem. Eur. J. 2008, 14, 4875.
DOI: 10.1002/chem.200702053

近年、フラーレンとカーボンナノチューブを組み合わせたナノカーボン複合体に多くの注目が集まっている。本研究では、化学修飾により可溶化した単層カーボンナノチューブ(f-SWNT)とフラーレンC60を混合溶媒中で複合クラスター化し、泳動電着法を用いて酸化スズ電極上に組織化した。得られた修飾電極の膜構造を走査型電子顕微鏡を用いて詳細に観察すると、f-SWNTの側壁にC60分子が密に吸着している様子が明らかになった。さらに、修飾電極を作用極とした湿式三極系セルにてその光電変換特性を評価すると、参照系であるf-SWNTのみ、あるいはC60のみの修飾電極と比較し、光電流発生効率に著しい向上が見られた。これは、f-SWNTの側壁に吸着したC60分子が、チューブ軸に沿った電子の効率的な輸送経路として働いたためと考えられる

 

Naphthyl-Fused pi-Elongated Porphyrins for Dye-Sensitized TiO2 Cells
Hayashi, S.; Tanaka, M; Hayashi, H.; Eu, S.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Araki, Y.; Imahori, H. J. Phys. Chem. C 2008, 112, 15576.
DOI: 10.1021/jp805122z

ポルフィリンは吸収帯が狭く、さらに、700nm以降の長波長領域の光捕集能が不十分であるため、増感色素として用いる場合には、太陽光スペクトルとマッチするように光捕集能を改善する必要がある。そこで、ポルフィリンのメソ位にナフチル基を導入し、それを縮環させたポルフィリン(fused-Zn-1)を合成し、パイ電子系を拡張することで光捕集能の改善を行った。Fused-Zn-1と参照系であるZn-1を用いてエネルギー変換効率を評価したところ、fused-Zn-1セルで4.1%、Zn-1セルで2.8%であり、縮合環化の結果、セル性能を向上させることに成功した。しかし、fused-Zn-1と反対側にナフチル基を縮環させたポルフィリン(fused-Zn-2)のエネルギー変換効率は1.1%ナあった。この原因を探るために、fused-Zn-1とfused-Zn-2の分子軌道計算をB3LYP/3-21G*レベルで行った結果、fused-Zn-1ではfused-Zn-2よりもLUMOの電子密度が、カルボキシル基上により広がっていることがわかった。これらの結果より、ポルフィリンとTiO2との電子カップリングが大きいfused-Zn-1セルの方が、ポルフィリン励起1重項状態から効率よく、TiO2の伝導帯に電子が注入され、その結果、高い光電変換特性を達成していると考えられる。また、さらにセル性能を向上させるために、光捕集能の異なるポルフィリン(fused-Zn-1, Zn-3)をTiO2上に共吸着させたセルを作製し、エネルギー変換効率を評価した。その結果、fused-Zn-1、Zn-3を共吸着させたセルは、それぞれのポルフィリン単独を吸着させたセルのエネルギー変換効率よりも高い値(5.0%)を示した。本研究の成果は、今後のポルフィリンを用いた光電変換系の開発において、重要な指針となると言える

 

Redox-Coupled Complexation of 23-Phospha-21-thiaporphyrin with Group 10 Metals: A Convenient Access to Stable Core-Modified IsophlorinMetal Complexes
Matano, Y.; Nakabuchi, T.; Fujishige, S.; Nakano, H.; Imahori, H. J. Am. Chem. Soc.2008130, 16446.
DOI: 10.1021/ja807742g

ポルフィリンのコアの窒素原子を、硫黄や炭素などで置き換えた構造を持つポルフィリン類延体はコア置換ポルフィリンと呼ばれています。当研究室では、コアに“リン原子”を持つポルフィリン(以下「ホスファポルフィリン」と呼びます)の合成に初めて成功し、このホスファポルフィリンの物性や反応性などに関する研究を行っています。リン原子の大きな特徴として、パラジウムなど遷移金属原子との高い親和性があげられますが、最近、この特徴が顕著に現れた面白い反応を発見しました。具体的には、ホスファポルフィリンに0価のパラジウムを作用させると、コアのリン原子はパラジウムに配位しようとします。一方で、パラジウムは電子をたくさん持ったままではキュウクツで、ポルフィリンのコアに入ることはできません。その結果、錯形成にともない、パラジウムからポルフィリンへと電子が渡されます。生成物の錯体において、パラジウムは2価になっており、ポルフィリン骨格は芳香族性の18π系から非芳香族性の20π系へと変換されています。つまり、ホスファポルフィリンは、芳香族性を犠牲にしてまでも錯形成を行っているという見方ができます

 

Regioselective β-Metalation of meso-Phosphanylporphyrins. Structure and Optical Properties of Porphyrin Dimers Linked by Peripherally Fused Phosphametallacycles
Matano, Y.; Matsumoto, K.; Nakao, Y.; Uno, H.; Sakaki, S.; Imahori, H. J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 4588.
DOI: 10.1021/ja710542e

ポルフィリンのメソ位にホスフィン置換基を持つ”ホスファニルポルフィリン”の合成法を確立し、Pd(II), Pt(II)との錯形成反応を検討しました。興味深いことに、いずれの反応においてもホスファニル基の近傍に位置するポルフィリン環β-CーH結合が位置選択的に活性化され、ホスファメタラサイクルで架橋されたポルフィリン二量体が形成されることが明らかとなりました。特に、単核の Pd(II), Pt(II) 錯体では二つのポルフィリン環が金属で直接架橋された共平面構造を取り、その吸収特性および電気化学特性(酸化電位)は架橋金属の影響を強く受けるます。このようなタイプの金属架橋ポルフィリン二量体は他に報告例がなく、理論計算による検討の結果、中心金属のd軌道とポルフィリンπ軌道との相互作用が、その物性に密接に関わっていることが示唆されました。

 

Syntheses, Structures, and Coordination Chemistry of Phosphole-Containing Hybrid Calixphyrins: Promising Macrocyclic P,N2,X-Mixed Donor Ligands for Designing Reactive Transition Metal Complexes
Matano, Y.; Miyajima, T.; Ochi, N.; Nakabuchi, T.; Shiro, M.; Nakao, Y.; Sakaki, S.; Imahori, H. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 990 (Corrections: 2009, 131, 14123).
DOI: 10.1021/ja076709o     DOI: 10.1021/ja907161j

カリックスフィリンはポルフィリンとカリックスピロールが融合した化合物であり、柔軟な骨格と酸化還元活性なパイ平面を併せ持つことから、新しいタイプのハイブリッド型配位子を構築する上で有望な化合物群です。我々は、脱水環化縮合反応を利用してホスホール環とチオフェン環あるいはフラン環を含む(コアにリン原子と硫黄原子あるいは酸素原子を含む)一連のカリックスフィリンの合成に成功し、その構造を明らかにしました。得られたハイブリッド配位子は、後周期遷移金属と速やかに錯形成反応を起こし、さまざまな配位様式・酸化状態を持つ金属錯体を与えます。たとえば、パラジウムとの錯形成反応は速やかに進行し、リン、窒素、硫黄が協同的に配位した2価の環状パラジウム錯体を与える。また、ロジウムとの錯形成では、複素環の種類によりロジウム中心の酸化数が制御されることを明らかにした。得られたパラジウム錯体およびロジウム錯体は、Heck反応やヒドロシリル化反応の触媒として作用するが、その活性や選択性は複素環の組み合わせに強く依存する

 

Fused Five-membered Porphyrin for Dye-sensitized Solar Cells
Hayashi, S.; Matsubara, Y.; Eu, S.; Hayashi, H.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Imahori, H. Chem. Lett. 2008, 37, 846.
DOI: 10.1246/cl.2008.846

色素増感太陽電池の増感色素としてポルフィリンを用いる場合、吸収をより太陽光にマッチングさせる必要がある。そこで、可視および近赤外領域における光捕集能を改善する為にパイ共役系を非対称に拡張した五員環縮環ポルフィリン(fused-ZnP)の合成を行ない、増感色素としての評価を行なった。パイ共役系を非対称に拡張した結果、吸収帯は長波長シフトならびにブロード化を示し、光応答は800nm付近まで達した。しかしながら、電子注入の際の自由エネルギーの低下のため、エネルギー変換効率は縮環前ポルフィリン(ZnP-ref)の4.6%に対して、fused-ZnPでは0.30%と低下した

 

Light Harvesting and Energy Transfer in Multiporphyrin-Modified CdSe Nanoparticles
Kang, S.; Yasuda, M.; Miyasaka, H.; Hayashi, H.; Kawasaki, M.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Yoshida, K.; Isoda, S.; Imahori, H. ChemSusChem, 2008, 1, 254.
DOI: 10.1002/cssc.200700138

光捕集アンテナ系としては、光合成に見られるようなポルフィリン集合体が有力な候補として考えられるが、共有結合を用いてこのような集合体を構築することは、その巨大さゆえに非常に困難である。これまで、我々は簡便に合成できる光捕集アンテナ系の開発を目的とし、ポルフィリン修飾金ナノ微粒子の合成に成功している。しかしながら、ポルフィリン分子を組織化する土台が金属の場合、光励起により生成するポルフィリン励起一重項状態が強く失活してしまうため、光捕集アンテナ分子としては不利に働く。そこで本研究では、そのサイズ制御によりポルフィリンの励起状態の失活を防ぐことができる半導体ナノ微粒子を土台に用いることでポルフィリン励起状態の失活を抑制できることを示した。また、半導体ナノ微粒子は可視部に強い吸収を持つため、半導体ナノ微粒子も光捕集部位として機能し、半導体ナノ微粒子が吸収したエネルギーが効率よくポルフィリン分子に移動することが明らかとなった

 

Meso-3,5-Bis(trifluoromethyl)phenyl Substituted Expanded Porphyrins: Synthesis, Characterization, and Optical, Electrochemical, and Photophysical Properties
Kang. S.; Hayashi, H.; Umeyama, T.; Matano, Y.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H.; Imahori, H. Chem. Asian J. 2008, 3, 2065.
DOI: 10.1002/asia.200800229

近年、5つ以上のピロール環が結合してπ共役でつながった環拡張ポルフィリンが、合成のみならず、光物性や電子物性など様々な機能の観点から、広範な関心がもたれている。最近我々は、ピロールと電子吸引性の3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒドを用いた反応により、ポルフィリン、サフィリン、ペンタフィリン、ヘキサフィリン、ヘプタフィリンの一連の環拡張ポルフィリン類を一段階で合成することに成功した。一連の環拡張ポルフィリン類の光学特性、電気化学特性、およびその励起状態のダイナミクスの比較を行うことで、ピロール数の増大に伴うπ共役の拡張効果を詳細に検討した。その結果、共役系が拡張されるに従い、HOMO-LUMOエネルギーギャップの減少が観測され、またその励起状態の緩和過程も促進されることが明らかとなった

今堀博研究室

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京都大学大学院工学研究科分子工学専攻
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