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ヘテロ元素を活用した新規π共役化合物の開発

 π共役分子は、そのπ電子系に由来する光吸収・発光特性やキャリア輸送特性など多様な性質を示すことから、これまでに様々な分子が開発されてきました。一方でヘテロールをはじめとするヘテロ元素を組み込んだπ共役分子は、ヘテロ元素特有の性質をうまく活用することで様々な物性・機能の発現が可能であることから近年注目を集めています。我々は、単なるヘテロール誘導体ではなく、π共役分子とヘテロールを組み合わせたハイブリッド型分子を適切に設計することで、π共役分子とヘテロールの両方の特徴をあわせ持つ分子の開発を目指して研究を行っています。

1. 異なるヘテロールの特徴を活用した新規ラダー型π共役分子の開発

 π共役系を同一平面上に固定するような架橋構造をもつラダー型π共役分子は、その剛直なπ平面に由来する強い発光やキャリア輸送特性などの特徴などから大きな注目を集めています。特にヘテロ元素を組み込んだラダー型π共役分子は、ヘテロ元素による電子構造の変調により物性をコントロールすることが可能であるため、様々な分子が合成されると同時に応用を目指した研究が精力的に進められています。そのような中で、我々は異なるヘテロールの特徴を活用した新規ラダー型π共役分子を合成し、その性質を明らかにしてきました。例えば、ピロールと種々のヘテロールを組み合わせた分子を合成し、ピロールとヘテロール両方の特徴をあわせ持つハイブリッド型分子となり得ることを見出しました。また、ジチエノ[3,4-b:3’,4’-d]ホスホールが、電子供与性置換基を導入した場合だけでなく、電子求引性置換基を導入した場合にも分子内電荷移動(ICT)吸収が見られるという、ホスホールのアクセプター性とチオフェンのドナー性という両方の性質をあわせ持つ、ホスホールとチオフェンのハイブリッド型分子と言えることを明らかにしています。さらに、チオフェン縮環ベンゾジホスホール分子が発光材料・二光子吸収材料・電子輸送材料として有望であることを見出し、多方面への応用が可能な魅力的な分子であることも明らかにしています。(Chem. Eur. J. 201521, 13375, JOrg. Chem. 201883, 3397, Chem. Eur. J. 201925, 6425.)

 

2. 周辺部にヘテロールを導入した新規ポルフィリン類縁体の開発

 ポルフィリンとチオフェンやホスホールといったヘテロールはともに機能性材料の開発において中心的な骨格であるにもかかわらず、それぞれを融合させてポルフィリンとヘテロールを組み合わせた系を構築する、という研究はこれまでほとんど行われてきませんでした。特にヘテロールを縮環させたポルフィリンは数例に限られており、様々なポルフィリン類縁体やπ拡張ヘテロール誘導体が合成されてきたこととは対照的と言えます。そこで、ポルフィリンの周辺部にヘテロールを縮環させた、あるいは導入した新規ポルフィリン類縁体を合成することで、ヘテロールの特性を組み合わせたポルフィリンの開発、応用展開を目指した研究を進めています。たとえば、我々が開発したビスピロロホスホールを活用することで、ホスホール縮環ポルフィリンダイマーを世界で初めて合成し、ポルフィリン多量体とホスホールの電子受容性を兼ね備えた分子であることを明らかにするなど、ホスホールと組み合わせることでホスホールの特徴を兼ね備えたポルフィリンが実現できることを見出してきました。(Angew. Chem. Int. Ed. 201655, 12311Chem. Lett. 201948, 257Chem. Eur. J. 201925, 13816.)さらに、ホスホールのリン原子の酸化状態を変化させることや、リン原子を窒素原子に置き換えることで、分子構造をほとんど変えることなくポルフィリンとしての性質を自在に制御することにも成功しています(Chem. Eur. J. 202026, 12043.)。

 その他にも、新規チオフェン縮環ポルフィリンの合成にも成功しており、適切な置換基を導入したポルフィリンを色素増感太陽電池に応用することで、現在世界最高のエネルギー変換効率を達成している増感色素と同等、さらにはそれ以上の太陽電池性能を実現できることを明らかにしました(J. Am. Chem. Soc. 2019141, 9910.)

3. ジチエノ[3,4-b:3’,4’-d]チオフェン骨格を活用した新規環拡張ポルフィリンの開発

 環拡張ポルフィリンは、5つ以上のピロールユニットを持ち、通常のポルフィリンよりも大きな環状共役系を有するために、ポルフィリンとは異なる様々な性質を示します。また、環拡張ポルフィリンのピロールユニットを異なるヘテロール環に置き換えたり、芳香環を縮環したりすることによって環拡張ポルフィリンの構造・物性を制御することが可能です。我々は、ジチエノ[3,4-b:3’,4’-d]チオフェンが、環拡張ポルフィリンにおけるピロールユニットを置き換え、かつチオフェン環が縮環した構造を与えることに注目しました。このとき、チオフェンのように中央の硫黄原子の非共有電子対が共役系に関与すれば環状π共役系となり、両端に縮環したチオフェン環のブタジエン部分の関与が大きい場合には交差共役系となるように、2通りの共役系が考えられます。したがって、環拡張ポルフィリンとのハイブリッド型分子とすることで、ジチエノ[3,4-b:3’,4’-d]チオフェン骨格の2通りの共役系を環拡張ポルフィリンがもつ共役系の変換に利用できることになります。そこで、実際にこのジチエノチオフェン骨格を有するオクタフィリンとヘキサフィリンを合成することで、硫黄原子の酸化あるいは構造変化によって硫黄原子の非共有電子対が関与する環状共役系と、非共有電子対が関与しない交差共役系の間で共役系変換が可能であることを明らかにしました。(Chem. Commun. 201753, 5091Chem. Sci. 20189, 7528.)

 また、ジチエノチオフェン骨格を有するオクタフィリンが、メゾ位のアリール基に電子求引性置換基を持たなくても安定に取り扱えることに注目しました。環拡張ポルフィリンは通常メゾアリール基に電子求引性の置換基を持たないと不安定であるため、ジチエノチオフェン骨格が環拡張ポルフィリンを安定化しているものと考えられます。そこで、環拡張ポルフィリンの還元状態を安定化できると期待し、ペンタフィリンが還元された、カリックス[5]フィリンを合成したところ、予想通りジチエノチオフェン骨格を有するカリックス[5]フィリンは空気下で安定であることがわかりました。さらに、フッ化物イオン存在下で可視・近赤外領域にわたる吸収スペクトルが変化することから、目視による色の変化だけでなく、近赤外光による検出も可能なフッ化物イオンセンサーとして利用可能であることを明らかにしました。(Chem. Asian J. 201813, 2019.)

今堀博研究室

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京都大学大学院工学研究科分子工学専攻
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