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ナノカーボン複合材料の創出と光・電子機能解明

 フラーレン、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、グラフェンなどのナノカーボン材料は、ナノテクノロジーの基幹物質として、ここ数十年に渡り大きな注目を集め続けています。その理由は、これらの物質が炭素原子でできたナノスケールの球、菅、シートというユニークな構造をとっていることにあります。
 我々は、そのナノカーボン材料のさらなる高機能化には、有機分子による官能基化および複合化が鍵となると考えています。これまでに有機合成化学や高分子化学の手法を活かして、様々なナノカーボン複合材料を創出しています。とりわけ、光機能性を有する新しい複合材料を創り、その物性評価を行い、光電変換素子に応用することを目的としています。

1.ナノカーボン‐光機能性分子連結系 

 我々は、SWNTやグラフェンのπ共役系へのアリールラジカル反応を利用して、電子供与性のポルフィリンを、オリゴフェニレンスペーサーを介して、共有結合で繋いだ連結系を創ることに成功しました。過渡吸収スペクトル測定等を用いて詳細な光物性解析を行うと、ポルフィリン−フラーレン連結系とは対照的に、これらの連結系では、光誘起電荷分離は起こらず、エキシプレックス生成とその減衰が起こることを見出しました。また、そのエキシプレックス生成および減衰の架橋子長に対する依存性は、同じ架橋子を有する他の系の電荷分離および電荷再結合と比較して大幅に小さくなることがわかりました。(Nanoscale Horiz. (Review) 2018, 3, 352.)

 また、有機二分子会合体をナノカーボンに選択的に連結する手法を開発し、会合体形成が連結系の光物性に与える影響についての検討を可能にしました。ピレンをSWNTに連結した場合には、二分子会合体においてのみ光誘起電荷分離状態の生成が確認されました。さらに、高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)測定により、SWNT上に形成されたピレンの二分子会合体構造を直接“見る”ことに成功しました。これは、有機分子の会合体を原子レベルの解像度で可視化することに成功した初めての例です。(Nat. Commun. 2015, 6, 7732; Chem. Commun. 2017, 53, 1025; J. Phys. Chem. C 2018, 122, 13285.

2.フラーレン‐ナノ構造物質複合系 

 我々は、溶媒の極性変化と泳動電着を利用して、フラーレン分子をSWNTの外側に集積する複合化手法を初めて開発し、SWNTの一次元ナノワイヤの構造を足場としたフラーレンによる電子のナノ輸送経路の構築を行うことに成功しました。また、同様な手法によりSWNTを電荷分離分子の微結晶間の電荷輸送ワイヤとして活用することにも成功しました。これらの複合材料は、優れた光電流発生特性を示すことがわかりました。さらに、本手法を二次元系材料に適用し、フラーレン−グラフェン複合体、フラーレン−遷移金属ジカルコゲナイド(TMD)複合体、フラーレン−アンチモネン複合体の作製にも成功しています。(Adv. Mater. 2010, 22, 1767; Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 4615; Chem. Eur. J. 2018, 24, 1561; Chem. Eur. J. doi.org/10.1002/chem.202001740

3.有機系太陽電池材料開発

 我々は、有機薄膜太陽電池やペロブスカイト太陽電池などの有機系太陽電池の高効率化を目指して、新しい有機半導体材料の開発にも取り組んでいます。p型半導体材料としては、高分子主鎖にキノイド構造や色素分子構造を組み込むことにより、近赤外領域にまでおよぶ広い波長範囲で光捕集能を示す共役系高分子を創出しました。一方、n型半導体材料としては、広く用いられているフラーレン誘導体([70]PCBM)が、複数の異性体の混合物であることに着目し、その異性体を分離した上で共役系高分子と複合薄膜化することで、太陽電池性能が向上することを初めて報告しました。(J. Mater. Chem. A (Feature Article) 2014, 2, 11545; Chem. Sci. 2017, 8, 181; Chem. Commun. 2018, 54, 405.)また、薄膜状態において励起一重項状態の長寿命化を示す非フラーレンアクセプターTACICを創出し、高効率な有機薄膜太陽電池を再現性良く低コストに作製するための新たな指針を提示しました(Chem. Sci. 2020, 11, 3250.)。

今堀博研究室

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京都大学大学院工学研究科分子工学専攻
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